2022/03/08 13:45

studio-L代表・コミュニティデザイナーの山崎亮さんより、推薦文をいただきました。
以下にご紹介いたします。

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studio-Lのみなさん。すごいプロジェクトを見つけました。『福島ソングスケイプ』っていうプロジェクトです。これは面白い。ぜひ聴いてみてください。
「聴いてみてください」っていう表現が、すでにいつもの事例紹介と違いますよね。普段、僕らが参考にしたいと思う事例って、読んだり見たりするものばかりですよね。ところが今回は聴くものなんです。ここに、このプロジェクトの最大の特徴がある。
プロジェクトを進めているのはアサダワタルさん。大阪事務所のメンバーの何人かは、アサダさんと会ったことがありますよね。「住み開き」で有名なアサダさんは、音楽家でもあるんですが、今回のプロジェクトはアサダさんのこれまでの取り組みが全部組み合わさったようなものになっています。地域づくり、福祉、住み開き、音楽。これらが混ざりあったようなプロジェクトです。
舞台は福島県の浜通り、いわき市にある公営住宅。2011年の震災の被災者の方々が集まって住む団地です。ともすれば孤立しがちな団地生活をラジオでつなぐ。曲でつなぐ。歌でつなぐ。詳しくはプロジェクトの説明文を読んでもらいたいのですが、団地住民の部屋を一軒ずつ訪れて話を聞き、それをラジオ番組のように編集し、それをCDに焼き付けて団地の全戸に配布しています。僕らがよくやる「ヒアリング」の結果が、議事録とか概念図じゃなくて、ラジオ番組のように編集されているのです。
さらに、そのヒアリングで登場した曲を、本人や友人たちが歌う。伴奏は公募に応じた関東在住のミュージシャンたち。住民の方々、伸び伸びと歌っています。我々は会津で「はじまりの美術館」のプロジェクトに携わりましたよね。想像してみて欲しいのですが、あのときワークショップに参加してくれた人たちに「歌ってください」ってお願いして、人前で伸び伸びと歌ってもらうことができたでしょうか?恥ずかしがって、きっと歌ってくれないでしょうね。会津地域と浜通り地域の性格的な違いはあるとはいえ、アサダさんたちの取り組みがいかに住民の信頼を得ていたのかが感じられるところです。また、浜通り地域の明るい性格をうまく活用したプロジェクトだともいえるでしょうね。
ハンナ・アーレントの勉強会で繰り返し学んだことですが、「活動は生まれた瞬間に消える。だから記録がとても大切になる」ということはコミュニティデザインの特徴でもありますよね。だから僕らは活動を写真に撮影する。動画で撮影して編集する。文字に起こす。しかし、『福島ソングスケイプ』は音声と曲として記録しています。これは、我々が携わったプロジェクトに無かった視点です。
現代は目が忙しい時代です。写真も動画も文字も目を独占する。でも、『福島ソングスケイプ』は耳を独占する。目を解放してくれる。このプロジェクトを聴き、「あ、これはうちのスタッフたちに伝えなければ!」と思って、このテキストを書き始めましたが、その間もずっと『福島ソングスケイプ』が流れています。そういうことができる。仕事の手を止めなくても聴き続けられる。そこに登場する人たちの声の抑揚、沈黙の時間、歌声、声を張りすぎて咳き込む様子などが感じられる。団地に住む人たちは、家事や仕事をしながらこれを何度も聴き、同じ団地に住む隣人たちを感じ続けていることでしょう。そして、遠方に住む我々も被災地で生活する人たちを感じることができる。ともすれば暗い話になりがちな被災地のことを、楽しく想うことができる。住民参加型のプロジェクトとして、我々が学ぶべき点がたくさん含まれるプロジェクトだと思います。
なお、曲の演奏をしている人たちのバンド名もまたいいですね。「伴奏型支援バンド(BSB)」。福祉分野ではよく「伴走型支援」という言葉が使われますが、『福島ソングスケイプ』に登場するおばあちゃんやおじいちゃんたちのことを考えると、「伴に走る」というより「伴に奏でる」という表現がぴったりだなぁと思います。
studio-Lでも、こういう発想でコミュニティデザインのプロジェクトを進めたいものですね。

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販売開始まであと3日。
すこしそわそわしながら、3日後を楽しみにしています。